中学受験、する?しない?

2022年08月16日

今月号の『朝日新聞エデュア』は、「受験適齢期を見極める」というなかなかいい特集をやっていますね。これからお子さんに中学受験をさせるべきかどうか、すでに受験勉強を始めているが、少し迷いが出てきたという方は、ぜひご一読をお勧めします。

特に目を引いたのは、理III無双の佐藤亮子(佐藤ママ)さんが、「中学受験はしなくてもいいもの」、「地元の公立高校で育ててもらえば(大学受験も)十分対応できます」と明言されていることですね。

「エデュア」執筆者には受験業界内部の人も少なくないわけで、そういう人たちが、お子さんに中学受験をさせるべきかどうか慎重に考えろと口をそろえて言うのは、よっぽどのことです。現場で、ヤバいケースをよほどたくさん目にしてきているのでしょう...。

一方で、受験業界的には、世の中の中学受験熱が高まって、受験生が増えると得になるわけです。複数の保護者の方からお聞きするところでは、千葉周辺の塾さんの中に、中学受験を半ば強引に勧めるところがあるということでした。

学校基本調査から類推しますに、千葉県では小学校から国・公・私立の中高一貫校に進学するお子さんは、1割もいません。ですので、中学受験は話題としてはよく出てくるわりに、それがどういうものなのか実際のところよく分からないという方が多いはずです。よって、塾は、おせっかいなほどに懇切丁寧に心構えや考え方についてご案内を尽くすべきだと、私は思っています。中学受験を強引に勧めたり、うやむやにしてそちらに誘導したりすることについては、大変に憂慮の念を抱きます。

10年程度の人生経験しかない小学生が挑む中学受験とは、何を目指すべきものなのでしょうか。それは、子どもに合った学校を選ぶということに尽きます。

ある程度身も心も成長した中学生や高校生が挑む高校受験や大学受験では、多少ムリ筋の上昇志向も成長の糧になります。しかし、小学生に対していたずらに高望みをさせることは将来大きな禍根を残すだけです。「高い目標」よりも中・高卒業までの6年間の成長のために今現在の自分の子どもに合った学校を考えることが第一です。

上に紹介した、半ば強引に中学受験に誘導している塾では、「とりあえず中学受験コースに入って様子を見て」と言われると聞きました。

まともに中学受験に取り組んだことのある塾関係者であれば、このような対応はありえないと即座に感じることでしょう。中学受験は、「やるかやらないか」しかないからです。

では、その「やるかやらないか」はどこで判断したらよいのでしょうか。それは、お子さんの「適性」です。

批判を恐れずにはっきりと申しますと、いわゆる難関中学校受験は、幼くして多くの才能を授けられた早熟な選ばれし子どもたちのための舞台です。そのような「適性」がなければ、最初から挑戦するべきでないと断言します。

そもそも大人が理解しておかなければならないことは、中学受験の段階でそうした「適性」がないと言ったところで、少しも嘆くような問題ではないということです。

小学生という、成長の個人差が非常に大きい時期に、難関中学を受験するだけの力が備わっていないからといって、それが即その子どものポテンシャルが低いことにはなりません。子どもの心の成長が、難関中学に入るような子どものそれよりは多少遅いというだけのことですから、その時点でその子に合った、6年後に大きく成長できる環境を探してあげればよいだけのことです。

国語道場では、細々と(笑)中学受験指導も進めてまいりました。それこそ県立千葉中に合格した生徒もいれば、世間的にはそれほど名門といわれるようなところではない中学校に進学した生徒もいます。しかし、全員に共通して言えることは、ひとりひとりがそれぞれに合った中学校に進んだということです。こうした進学は、その後の子どもたちを大きく成長させてくれます。

入学時点の偏差値がそれほど高くないが、面倒見の良いある私立中高一貫校に進んだ生徒がいます。6年後、私がその学校の塾対象説明会に行ったとき、その子は都内の国立大学に現役で合格し、学校案内のパンフレットに写真付きで紹介されていました。このように、お子さんが成長できる場としての学校を探すことが大切なんじゃないでしょうか。

一方で、子どもに合っているかということよりも、上昇志向で受験中学を決めてしまい、受験勉強を進めることで、無自覚に子どもの心に深い傷を負わせてしまっている親御さんは少なくないのではないでしょうか。

実際、中学受験で「失敗し」て、折に触れて自分の「頭の悪さ」を自嘲し、「優秀な」友達の話をするような中学生たちと、我々塾で働く者はしばしば出会います。たまたま小6の段階で、難関中学入試で合格できるほど早熟でなかっただけなのに、自分を能力が低い者のように思ってしまう子どもたちに出会うたびに、心が痛みます。

千葉中は難しいだろうから、とりあえず稲国を受けさせようなどと考えていらっしゃる方。稲毛国際中入試も高倍率で、いわゆる安全圏がないほど厳しいです。「とりあえず」受けさせた結果、子どもがどれほど傷つくことになるか、どうか考えていただきたいと思います。渋幕は無理でも、△△は何とかならないかなどと思っていらっしゃる方。偏差値だけではなく、中高の6年間、お子さんがたくましく成長できる学校を探す、という尺度を持ってください。

お子さんにぴったりの中学校に出会えたならば、ご家族にとっても本人にとっても、中学受験は本当に素晴らしい経験となることでしょう。塾の中学受験指導は、そのような出会いの一助となるものであるべきだと思います。